置賜地域の医療を守る砦として

置賜広域病院企業団 医療監(兼)公立置賜総合病院 院長 林 雅弘

2000年に当院が開院するまで、長井市立病院には483床、南陽市立病院には251床、川西町立病院には98の病床がありました。飯豊町にも診療所があります。ですが、この4つの病院・診療所とも、様々な問題を抱えていたんです。どんな問題かというと、まずは医師・看護師の減少です。それに加えて、病院経営は赤字が続いていましたし、建物は老朽化が進んでいました。

そこで、機能をひとつに集約した急性期医療の病院を新しくつくり、長井市・南陽市・川西町・飯豊町、そして山形県も一緒になり支援していこうということになりました。結果、急性期医療はここ(公立置賜総合病院)に集中させ、初期と回復期の診療は、2市2町のサテライト医療施設(公立置賜長井病院・公立置賜南陽病院・公立置賜川西診療所・飯豊町国民健康保険診療所)で分担するように再編されたんです。

現在、当院の医師の数は100人を超えるまでになりました。急性期の現場で様々なことを勉強できる、新しい機械も揃っているとなると、ここで働きたいという人が増えてきます。機能を集約することで医療スタッフも集まってくるようになり、医師が少なくてできなかったこともできるようになる——。そうして、今この病院が成り立っているわけなんです。

公立置賜総合病院外観

病院理念「心かよう 信頼と安心の病院」に込める想い

「心かよう」というのは、患者さんを中心に考えようという意味です。

「信頼」は、患者さんと職員の間の信頼です。信頼していただくためには、高度医療を提供できること、そして、“人”が大事になってきます。医療というのは、人と人の対応ですから、病院として人をきちんと育てることが、信頼を得ることに繋がっていきます。

「安心」に込めている意味は、まずは医療安全です。そして、いつでもかかれる救急医療の病院として安心を提供し、地元で治療できる体制と連携を築いていくということ。さらには、職員が安心して仕事に専念できる環境整備も欠かせませんし、この病院がなくなるのではないかという心配があっては安心できませんから、病院経営も大切です。

一言のなかにいろいろな意味を込め、「心かよう 信頼と安心の病院」という病院理念を掲げています。

入院患者

救命救急センターとしての役割

当院には、開院当初から「救命救急センター」が併設されていますが、実は、最初は設置を認められない可能性があったんです。救命救急センターは人口30万人に1か所が目安になっていますが、置賜の人口は30万人もいませんでしたから。

ですが、それでは困ります。当院には、村山地域の一部や、県を超えて宮城県七ヶ宿町からも、救急車で患者さんが運ばれてきます。そこまで含めると人口が30万人になるため、救命救急センターの設置を認めてもらうことができました。

救命救急センター

やはり、ここに救命救急センターを置くことには、非常に大きな意味があります。現在は、新潟県や福島県からもドクターヘリで患者さんが運ばれてきますが、これは救命救急センターがなければできなかったことです。

また、「災害拠点病院(地域災害医療センター)」としても認定を受けており、この地域で災害が起きたときに中心となる病院です。なおかつ、遠隔地で災害が起きたときにも、DMAT(災害派遣医療)チームを編成し、出動できるようになっています。

地域医療の重要性と外部からの評価

「地域がん診療連携拠点病院」は、がん診療の中心となるよう認定された病院のことで、置賜では当院しかありません。2022年4月から認定の基準がさらに厳しくなりましたが、当院は、常勤の専門医がいること、手術の件数を満たしていることなど様々な条件をクリアし、認定を維持できるように努めています。

なぜこんなことをしているのかといえば、この地域でがんになっても安心して診療が受けられるようにするためです。ほかの地域に診療に行けば良いかというと、そうではないですよね。地域医療においては、この地域で暮らしながら診療を受けられる体制を作っていくことが、何より大事だと思っています。

外部からの評価ということでは、「日本医療機能評価機構認定病院」として、2022年7月に3回目の認定を受けました。また、多くの学会等の認定施設にもなっています。認定施設として認められるということは、しっかりした教育ができる専門スタッフや指導医がおり、診療できる体制やハードがきちんと整っているということです。それぞれに細かい条件がありますから、クリアできるように必要なハードや専門医を揃えてきた結果なんですよ。

科や職種を超えた連携「チーム医療」

今は、医師と看護師だけで患者さんを診療しているわけではありません。患者さんが外来にいらしたとき、最初にタッチするのは事務・受付です。それから看護師が問診をし、医師が診療をし、電子カルテの記録には医療クラーク(医師事務作業補助者)も参加します。検査の際は臨床検査技師や診療放射線技師が関わり、入院する場合には保険や入院の準備についてスタッフがご案内します。食事に関わる栄養士もいますし、退院となっても誰かのお手伝いがないと生活が難しい場合は、社会福祉士がサポートする体制をつくっていきます。そういうことをすべて行わないと、患者さんのサポートはできません。それを実現させているのが、チーム医療なんです。

ナースステーション

チーム医療は、上からの指示ではなく、必要に応じて始まったものだと思ってください。たとえば、脳梗塞になった方が退院して家へ帰るとき、一番障害になるのはものを食べられるかどうかです。検査をして、トレーニングをしたり食事を変えましょうと、みんなで集まって検討していたことから、ドクターやリハビリスタッフ、栄養士が一緒になった摂食・嚥下リハチームができていきました。

あるいは、入院中に認知症になったり鬱になった方たちをサポートするため、認知症に詳しい医師や看護師が一緒になり、精神科リエゾンチームが作られていきました。

NST(ニュートリション=栄養)チームは、入院している患者さんの栄養状態をサポートするチームで、毎週回診をして栄養状態が悪い人がいないかチェックしています。 当院はもともと科の縛りはあまりありませんが、チーム医療はそれこそ科の枠組みを超え、歯科口腔外科と耳鼻科がチームを組んだり、消化器外科・消化器内科・耳鼻科が一緒になって回診をしたりと、患者さんのために横断的に相談し対処しているんです

チーム医療に欠かせない専門人材の育成のために

チーム医療は、専門的な人材が集まっているからこそできることです。

私は医師ですので医師の育成を考えると、文章や動画で知識を教えるだけでは不十分で、人とコミュニケーションをとり、その患者さんが良くなっていったり、後で感謝してもらえたということが、どんどんモチベーションをアップさせていくと思っています。ですから、若手スタッフに関与させることが、育成のためにはとても大切なんです。

教育は時間もお金もかかります。ですが、やらないと次の世代が育ちませんから、教育にも力を入れていきたいと思いますし、力を入れてきたから人が集まるようになったとも思っています。看護師も以前は不足している状態でしたが、入職したばかりの看護師を教育するシステムを懸命に整備してきたことで評判になり、ここを希望してくれる人が、今では定員を超えるようになりました。事務スタッフも、たとえば何かの資格を取ることで、自分のできることがひとつ増え、また新しい仕事の世界が広がっていきます。

時代も変わってきていますから、若い人たちが勉強しやすい体制をつくっていきたいですね。

医師と患者

これからの地域医療を見据えて

置賜地域の人口のうち米沢市内の現在(2022年5月時点)の人口が約8万人、それ以外が12万人ほど。その医療をどうやって支えていくかということが、人口減少が進むこの地域における長期的な課題です。

実は、この病院が成さなければいけない役割は、ここの病院が決めることではなく、地域の医療ニーズが、この病院に何をしてほしいか決めていくんです。地域の医療ニーズを的確に判断し、それに合わせて対処していく。将来にわたってこの病院を急性期医療ができる病院にしていくために、患者数に応じて病床数をスリム化したり、急性期と初期・回復期の機能を分担し連携していくことは欠かせないでしょう。

それが、地域全体として考えたとき、患者さんにとって一番良い方向性であるというのが、私の考えです。

置賜広域病院企業団 医療監(兼)公立置賜総合病院 院長 林 雅弘

(取材日:2022年11月8日)