地域医療を支える連携力

置賜広域病院企業団 企業長 渡邊 丈洋

置賜広域病院企業団では、公立置賜総合病院を中心として、地域のみなさんに良質で安全な医療サービスを提供するため、各市町の病院・診療所と連携しながら、診療を行っています

公立置賜総合病院は、置賜地域で唯一の救命救急センターを併設し、地域がん診療連携拠点病院や第二種感染症指定医療機関などの指定も受け、高度治療や急性期医療を担当しています。一方で、サテライト医療施設(公立置賜長井病院・公立置賜南陽病院・公立置賜川西診療所)、及び飯豊町国民健康保険診療所は、各地域の初期医療や回復期医療を担っています。

公立置賜長井病院と公立置賜南陽病院は、当企業団のサテライト医療施設として再編される以前から、長井市立総合病院、南陽市立総合病院として活躍してきた病院です。建設されたのが何十年も前ですから、老朽化や耐震性の面で心配されていました。建物が古いということは、設備面や療養の環境面でも、課題を抱えていたということです。

そこで、患者さんにとってより優しく、そして機能性も高めた病院へ生まれ変わることをコンセプトに、各自治体や地元の医師会、関係者のみなさまに多大な支援をいただきながら、南陽病院は2019年、長井病院は2022年に改築が完了しました。

新しくなった公立置賜南陽病院

置賜総合病院とサテライト医療施設は、患者さんの病状に応じて相互に紹介・転院するなど、常に連携しています。すべて当企業団が運営している施設ですから、特に効果的かつ円滑に連携できるんです。

住み慣れた場所で療養できる地域を目指して

置賜地域は高齢化がかなり進行しており、患者さんも高齢の方が多くなっています。そして、多くの方が、できるだけ自分が住み慣れた自宅で療養生活を送りたいと願う傾向にあります。そうしたことから、今後は「在宅医療」がますます重要になってくると考えています。

改築した長井病院・南陽病院では、在宅医療支援機能を併設しました。南陽病院では、ドクターが訪問診療に出かけており、訪問看護事業所としても認定を受けています。長井病院は、長井市さんが運営する地域包括支援センターや訪問看護ステーション、長井市西置賜郡医師会さんが運営する在宅医療連携推進室が併設されています。こういった在宅医療支援機能を効果的に活用し、高齢の患者さんの療養に対して、一丸となってサポートしていきたいと思っています。

さらに、患者さんが退院されると、家族の方が介護されたり、自宅でなく介護施設に移られることもあります。地域の医療機関をはじめ、介護施設などとの連携も一層強化しながら、住み慣れた地域で安心して医療・介護サービスが受けられる体制づくりに、企業団としても貢献していきたい考えです。

置賜広域病院企業団 企業長 渡邊 丈洋

現代医療や地域連携に欠かせないITの力

近年の医療は高度化・複雑化してきており、ITとは切っても切れない関係になってきています。患者さんの診療情報、いわゆるカルテは全て電子化されていますし、診療の予約から受診・会計に至るまですべてシステム化され、業務の効率化が図られています。置賜地域では「OKI-net(おきネット)」という医療連携システムを構築し、登録機関同士の情報共有を可能にしています。電子データ化された患者さんの情報は、OKI-netを利用して転院や紹介の際にすぐに共有できますので、受け入れ先の病院で迅速に治療に入ることができます。また、受診歴・投薬・検査情報などを参照することで、検査や投薬の重複を避けられるというメリットもあります。

薬剤部

今後は、さらにOKI-netの登録機関数を増やしていきたいと思っていますが、病院や診療所だけでなく、介護施設やケアマネージャーさんにも登録いただきたいと考えています。これにより、患者さんが介護施設に移る場合や、ケアマネージャーさんのお世話になって介護認定を受けたり介護サービスの内容を決める場合にも、効果的に医療と介護の連携が行えるようになります。

そしてもうひとつ、IT活用の展望として、当院でも将来的にオンライン診療を始めたいと検討しています。置賜地域の病院や診療所の中には医師不足に悩んでいるところがあり、地域支援医療病院である当院から、定期的に医師を派遣しています。しかし、将来さらに人口が減少していったとき、地域の病院や診療所は本当に継続できるのかという課題にぶつかるんです。当然、少人数でもそこに暮らしている方々がいらっしゃいますから、病院や診療所は継続していく必要がありますし、継続していくには医師を確保できていないといけません。

必要とされるへき地の医療機関を守っていくことは、当院の使命のひとつです。オンラインで診療することができれば、医師の負担も減り、へき地での診療の継続に貢献できるのではないかと考えています。

これからの地域医療を見据えて

置賜地域は今後も高齢化が進展していくでしょうし、人口も減っていくことを考えると、医療に対するニーズや質も変わってくることと思います。また、医師や看護師など——我々は「医療資源」と呼んでいますが——、医療資源にも限りがありますから、以前のようにそれぞれの病院が単独ですべての病気を診るのはほぼ不可能です。

では、地域の病院をなくして良いかといったら、そうではありません。医療ニーズが変わり、医師がなかなか確保できない中でも、将来にわたって地域の医療機関を存続させていくため、置賜総合病院とサテライト医療施設が役割分担をし、患者さんにも病院の特徴に沿って病院を選んでいただけるようにならなければなりません。そして、ひとりの患者さんの回復・療養までを、一体となって繋いでいくのです。

薬のお渡し

置賜総合病院は、地域住民の命と健康を支える最後の砦です。サテライト医療施設を含む地域の病院・診療所が相互に連携し、持続可能な状態で運営していけるよう、この企業団が果たしていかなければならない役割は大きいと思っています。

(取材日:2022年11月18日)